遊記レビュー[漢鐘離成仙]
◆鐘離権生い立ちの巻

 鐘離は、名は権と言い、燕台の人。後に名を改め覚とし、字は寂道、和合子とも王陽子とも号し、雲房先生と呼ばれていた。父は官の人で、列候であった。

 漢の将軍様というちゃんとした経歴の持ち主です。いや、それだけでも十分凄いんですが。もっとすごいのが生まれた状況ですよ。

 鐘離が生まれる時、異光が放ちて烈火のごとくとなり、まわりを驚かせた。その子、頭はまるく、額は広い。耳は厚く、眉は長い。奥目、赤鼻。口は角ばり、頬がふくれていた。唇は丹の如くに赤くて、乳房は腕ほど長く、体つきは三歳児のようであった。昼夜、声も出さず、泣きもせず、お乳も飲まない。七日目に突然飛びおきて、
「身は紫微宮にとどき、名は玉冊に書す。」
と言ったという。

 赤子だよね?え、赤……?いやまあ、気持ち悪いので想像するのはやめとこう。ともかく元から只者じゃなかった鐘離さんは成長するとすぐに仕官しました。
 ある時、吐番(とばん)という国が、兵を率いて漢の辺彊(へんきょう)を侵犯するようになりました。女を略奪するは、民家に押し入り物を盗むはで、その被害は甚大です。 事態は急を要するため、すぐさま鐘離権を大将とする漢軍に吐番征伐の命が出されました。
「よいか。これから、古より中華の地を犯した夷狄を討ちにいく。夷狄は、もともと中華の外にあり、中華に従属する所であった。大漢が国をたててより、四海は平穏で、蠻夷はおとなしかった。ところが、どうだ。今、吐番の恩知らずが、辺彊の地を侵し、九廟を震撼させて、社稷をも動揺させているというではないか。みんな、誠をつくし、力をつくせ。~(以下略)~」
 鐘離が号令をかけ、進行していく漢軍。そしてついに奇水の上流で吐番の兵と衝突します。何この手に汗握る展開、胸熱。

 吐番軍の大将は、粘不聿(ねんふいつ)という中々の手練れで、両軍が相い交えて戦うこと八十余回。奮闘しますが、勝負は互角です。両軍とも太鼓を鳴らし、一旦それぞれの陣営へ帰り、作戦会議です。一度手合せして、侮れない相手と分かった鐘離は、第二戦では見張り台に上り、敵の陣形を注意深く観察します。
 吐番軍は物々しい陣を組んで、陣の周りを八つの門戸で固めていました。
「おい、あの陣法を知っているか?」「いいえ、始めて見るものです。」部下の憑巳(ひょうい)を傍へ呼んで、鐘離は相手の陣形と作戦を伝えます。
「これは、八門金鎖の陣と言ってな、陣には八門、すなわち、休、生、傷、杜、景、死、驚、開があり、休、開の門から入ったら吉、その他から入れば兇を招く。八門をよく見て頭にたたきこみ、精鋭三千兵を率いて陣へ突入せよ。攻め方はこうだ。東南の一角に青旗の位置から攻撃して敵をけちらし、東北の国旗の門から出る。また東北の門から攻め入り、もとの東南へと進め。敵は陣のかなめを破られて大混乱となり、あとは自滅するだけだ。わしがそこで大軍を率いて乱れた軍を崩しにかかれば、我が軍の勝利も確実だ。但し、慎重に攻めるのだ。少しでも間違えば、大事となること心して行け。」
 鐘離の立てた作戦は、憑巳のアシストにより見事に成功をおさめます。吐番軍は多くの犠牲を払い、その場から逃げ出す他にありませんでした。
しかしここまで大勝していたはずの漢軍は、この後、同じ吐番軍にまさかの大敗を喫すことになります。その要因を作ったのがやっぱりあの人…。

◆李鉄拐に邪魔されて落ち延びるの巻

 吐番軍のほかに漢軍の勝利を面白く思わない方が一人いました。
「わー。アイツ仙人の癖になにやっちゃってんの~?俗世かぶれひどくない?いっけないんだぁーm9^Д^(大意)」たまたま戦地付近を通りかかった鉄拐です。お前ら初対面ジャンってつっこむところですが、鉄拐さんの言うとおり、鐘離さんは元仙人で、下丹して今の姿になっているので、実は本来の目的を見失ってるんですよ。じゃなかったら、生後七日にして「身は紫微宮にとどき、名は玉冊に書す。」とか言わない。
 鉄拐は老翁の姿になって、敵将の不聿に会いに行き、今夜奇襲で敵を攻めれば大勝ができるとアドバイスしました。これは漢軍の罠だと疑う味方を諌め、不聿もそれしか方法がないと老人の意見に同意します。不聿は鐘離も認める程に能のある大将ですから、すぐさま四万の精兵の準備を整え、四方から漢軍の陣営に忍び寄ります。鐘離も奇襲に備えてはいましたが、陣営の後方から火の手が上がると、用意不足の味方は混乱してただ辺りを奔走するばかり。鐘離も敵に囲まれ絶体絶命の窮地に追い込まれてしまいます。

 危ない所を憑巳に救われ、何とか命は助かったものの、鐘離は絶望のあまり自暴自棄になってしまいました。戦に負けたことに責任を感じ、帰ることもできません。馬を連れてトボトボとあてもなくなく歩いていると、異形の顔だちをした僧侶と遭遇します。
その僧から常人ならざる覇気と気概を感じ、鐘離はすぐに駆け寄って「どこか休める場所はないでしょうか?」と尋ねました。僧は笑って言います。「ここは東華先生が、道を体得された所、将軍ここで休まれるがよい。」
 僧に案内され着いた家では、皮の袍を着た一人の老人が鐘離を出迎えてくれました。一晩泊めてほしいとお願いする鐘離を、麻姑酒やごまの飯でもてなしてくれます。
「功名富貴、すべてが浮き雲のようなものです。~(中訳)~将軍はどうして功名と言うものに、そのように固執されるのです。なにゆえ、俗慮をお捨てにならないのです。」その言葉にハッとさせられた鐘離は、老人に養生の秘訣を聞き、老人は鐘離に長生きの秘訣、金丹の製法、青龍剣法などを悉く伝えました。
 次の日鐘離は老人から帰り道を聞いて、別れを告げます。ふと振り返ると今まであった家も老人もすべて消えてしまって、そこには何もありませんでした。

◆仙人修行にお兄ちゃんも連いてきちゃったの巻

 鐘離は戦死したのだろうと思い、家中が悲しみに暮れていたところ、本人がひょっこり現れたので家の人は皆驚きました。彼がこれまでの経緯を家族に話すと、家の人は「そう言えばおまえが生まれた時、異光がピカーッと光って、初めにしゃべったのが、『身は紫微宮にとどき、名は玉冊に書す。』という言葉だった。あの時のことを覚えていれば、私たちもこんなに心配しなくてよかったんだねー。」と再び涙ぐんだ。
 いやいや、ねーし…おかしいでしょその反応。この家族間違いなく天然だ、間違っても忘れねーよその事件…(;^ω^)でも一応無事だったことを家族皆で喜びます。鐘離はお咎めを恐れて、朝廷から離れ、修行の旅に出ることを決意しました。何故か兄貴を連れて。
 早速出発した二人は、「鴨の頭は何で短くて、鷺の首は何で長いの~?(><; )」などと議論しながら歩いていると、大勢の村人が一匹の人食い虎を追っかけているところに遭遇。虎は白い額に金色の眼がキラリと光り、いかにも獰猛そうです。実際今日も一人子供を喰っちゃってるらしいです。
 皆で協力して崖の所まで追い込んだのですが、猟師も怖くてなかなか虎に近づけません。そんな時に近くを通りかかった二人。村人は鐘離の堂々たる体格を見て「この人なら勝てそう!」といきなり無責任なことを言い出します。兄の簡も「おい、助けてやれよ。おまえは、青龍の剣法を習得したと言ったが、ひとつ試してみたらどうだ。」とまた無責任なことを言ってくれます。しかし鐘離はあくまで落ち着いた顔で頷くと、言われた通りの術を使ってサクッと余裕の勝利。村人から感謝され、兄弟ともおしまれて去って行きました。兄ちゃんは何もしてないよ。

 さて、数日山野を旅し、いつの間にか華山に到着していた二人。
 ある日、みすぼらしい格好の男が一人、墓穴を掘ったり埋めたりしているところに出くわします。話を聞くと、年寄や子供が飢饉で弱り、死んでいくのだそうです。苦しんでいる民を目の当たりにして、何とかしてやりたいと思った鐘離は、金丹の術を駆使し、金を作って貧しい人たちに配ってまわりました。
 上仙王玄甫なる仙人に長生きの秘訣を聞いたり、華陽真人に太乙刀法と火符内丹を伝授されたり、鐘離は着々と法を身につけていきます。そうしているうちに、神仙の秘訣がしたためてある本と出会いました。小屋に閉じこもって本を読み、その指示に従って行動します。すると、仙楽が何処からともなく聞こえ、天から仙人の使いの鶴が現れて「玉帝の命令で、君を迎えに来た。来るがよい。」とのお告げがw
 お兄さんに本を託して、鐘離は天へと去って行きました。お兄さんも本に書いてあることを学び、それから少し遅れて天に召されましたとさ(※死んでない)

2011/11/30

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天界のとある「禁」を犯してしまい、
下界に追放されてしまった一人の天才笛吹き。
水面下で起こる驚天動地の事変に巻き込まれながらも、
幼い兄妹をお供に連れて「人探し」の旅を続けていた。

この物語は仮想中華をテーマとしたファンタジーです。
「東遊記」のオマージュ要素を含みます。
史実との関連性は全くありません。
引用された実在の名前も、物語では設定が異なります。
実際の「東遊記(エリート出版社)」や八仙については、
「東遊記About」をご覧ください。

● 本編(朔月と笛吹き)
序章「うさ耳美少女誕生秘話」
一話「ハロゥワーク」本文32p
二話「天才天子穆王」本文33p
三話「嵐の前の静かな笛」本文35p
四話「舞萩の言祝」本文46p
五話「藍采和師父」本文32p
六話「豊邑の崖」本文37p
七話「地竺の国の美美」サンプル26p
八話「意に染まぬ婚姻」サンプル12p