遊記レビュー[李鉄拐成仙、+aで九天玄女]
かつて、真理の道に開眼した八仙人と呼ばれる人びとがいた。八仙人とは、鉄拐、鐘離、洞賓、果老、藍采和、何仙姑、韓湘子、曹国舅のことである。
この冒頭の一文から物語が始まります。前半は道教思想的な内容が大部分を占めてて、後半の方が物語的には楽しめるかと。この辺は「ふーん、そんな内容なんだね~」って感じで読み飛ばして下さい。 これから語られる「李鉄拐」についても本では尺取りまくってるけど、大筋じゃない所は端折りますわ~。
◆李鉄拐生い立ちの巻
鉄拐、姓は李、名は玄。しかし、鉄拐とは後からつけられた名前である。生まれながらに非凡な才能を持ち、成長と共に学問も根源を極めた。威風堂々たる体格をもち、五行の秀気をおさめ、心は活達、天地の幽遠なる道理にも通じていた。年二十歳にして、常人の生活をいとなまず、大道金丹を志す。
要は生まれながらの天才児が、若いうちから悟りを開いて仙人めざそう!って思っちゃったらしい。
「俺何でもできちゃうし、やろうと思えば何でも手に入るけど、どうせ形有るものは無くなるんだから。そんなものに人生振り回されんのってダサいよねε- (´―`*)」と言わんばかりに“持ってる男”の自信と余裕を醸し出しつつ、真理の道を目指します。
このように、求めるものは何もないくらい完璧(?)な鉄拐だったのですが……。世に伝わる彼の容姿はそれとは全く正反対の“乞食”です。
どうしてそうなっちゃったの?っていうところが、今回の話の内容だったりします。真理の道を修めようと志す鉄拐は、とりあえず洞窟とかを住処にして、自ら修行に励んでいました。しかし鉄拐さんも馬鹿じゃないのでそのうち気がつきます。一人でやって、何でも上手くいくほど世の中甘くない。
同じ李姓の始祖で、太上老君の現世の姿である老君という人が、崋山に住んでいると聞き及んで、早速その弟子にしてもらおうと旅立ちました。
一日も休まず崋山を目指して、ようやくそれらしき山を発見。山はたいへん高く、近づくにつれ松柏が不気味に天に伸びているのが見えました。
はしゃぐあまり大声で詩を吟じたくなったらしい。泉の小さな流れは、清らかで、
山に咲く花は、霞のなかを舞っている。
白雲が会するところ、
そこに、人のすみかがあるのだろうか。それで何か超常現象起こるわけでなく、夜分遅くに尋ねたら迷惑だろうからと山のふもとで一晩を過ごします。ここまででやっと一話終了。
さて、二話は八仙と全く関係ない内容なので老君には悪いけどさっくり飛ばし…。三話でついに老君と対面しました。詳しい件は省きますが、崋山には老君と宛久という二人の仙人がいて、宛久にあまり仙人になるのを焦るなと忠告を受けます。
鉄拐は忠告を守って山を下り、また修行に戻ります。弟子と道について論じ合っていると、山の頂で一羽の鷹が悠々と大空を飛んできました。それを見て、鉄拐はまた何か悟った模様。自戒を込めて詩を口ずさみます。
とどまるべき所にいよう。自然にいよう。
まぶしく晴れたら、目を半分開けて、
衣をひるがえして千仭の岡にいよう。
どうして世俗が恋しいことがあろうか。その時瑞雲が立ち込め、その向こうから老君と宛久が鶴に乗って現れました。
「今日のおまえをみていると、かつて、私が教えたことが少しは分かってもらえたようじゃな。」と、なんだか老君にも認めてもらえたようで、「私は西域の諸国を遊行しようと思う。お前も一緒に来るのだ。十日後に霊魂となって私のところへ来るがよい。」と言い残します。十日後、鉄拐はその通りに、霊魂を体から遊離させ、抜け殻となった体を見張るように弟子に言い付けて老君の元へと向かいました。
◆幽体離脱してる間に焼死体になるの巻
鉄拐の弟子の楊子(ヤンス)ですが、約束通りに七日間キチンと魂の抜けた体の番をするつもりでいました。ですが、六日目になって急に親戚から母危篤の知らせを受けます。
楊子は先生の傍から離れるのを戸惑いますが、死に目に会いに来てほしいと呼ぶ母の事も気にかかって仕方ありません。結局親戚に説得され、抜け殻の死体を焼いてしまうことにしました。
鉄拐を手厚く葬り、弔いの辞を捧げた後、泣く泣くその場を去るのですが、結局母は楊子が帰る前に息絶えてしまったのでした。李鉄拐が老君と別れて家に帰ると、体も弟子の姿もありません。しばらく周りを探すと、薪の下から自分の焼死体が……っ!ギャースとなった鉄拐は弟子の裏切りに憤慨しますが、ふと、老君が去り際に残した詩が頭をよぎりました。
穀物を絶とうとして、
麦は絶たないのか。
しばらく心を清らかにすべし。
昔の形骸がなくても、
新しい顔が待っていよう。頭髪は焼け縮れぼうぼうで煤で顔の汚れた死体を見て、「そうだ、もともとこのようだったと思えば、誰もうらまなくてよい。」と思い改めた鉄拐はそこへ魂を宿らせます。
片足で杖に頼って歩くしかない体でも、立ち上がって「この体がこれからの鉄拐となるのだ。」と手にした竹の杖に水をかけると、竹は鉄の杖へと変わりました。さて、次に気になったのはやはり弟子の楊子のことです。自分が留守中に彼の母が亡くなってしまったことを知った鉄拐は楊家へ向かいました。
そこで楊子は母の棺に縋って離れようとせず、ずっと泣いていました。悲しみのあまり、剣を抜いて自らの首に刺そうとしたところを鉄拐が慌てて止め、諭します。
「死ぬも生きるも命あればこそ。何も急いで死ぬことはあるまい。人の子が親につかえるとは、生きている時には親孝行し、死んだら悲しんで、死者の為に棺おけや着るもののしたくをしてやり、墓地のよしあしを占って墓をつくり、丁重に送ってやることだ。どうして後を追って死のうとするのか。」楊子は以前と風貌がまるで違う目の前の鉄拐が、先生だとは気付いていない様子でこう答えます。
「私は悪い人間なんです。実は私の先生が精霊となって華山へ遊行する間、その先生の体を守るようにいわれたのですが、約束の七日がくる前に、その体を焼いてしまったのです。六日目に私の母が危篤という知らせを聞き、いてもたってもおられず、私は先生の体を焼き、帰ってしまったのです。でも帰ったら、母は息絶えていました。私は母に親孝行してやれなかった。先生のいいつけも守れなかった。母は私を恨んでいる。先生も私をうらぎり者と恨んでいる。親不孝で忠誠心の心もない。人は私を後生までの恥として嫌うだろう。天下の罪人、世間の廃物、こんな奴は死んでしまった方がいいのだ。生きていく価値などないのだ。」そう言ってまた自害をしようとします。剣を取り上げて鉄拐は言いました。
「忠孝の心とは、志を立てた者にしか生まれてこない。おまえにはそれがある。おまえが親不孝、忠誠心がないと言って自らを責めていることこそ、実は大きな忠孝の心なのだよ。私は天下を遊行し、神仙より生き返りの霊薬を授かった。善人で悲しんでいる者があれば救ってやろうと思う。おまえは善人だ。この薬を母に飲ませるがよい。だが、本当に生き返るかどうかはわからないよ。」
楊子の母に瓢箪の水に溶かして薬を飲ませてやると、たちまち顔がうっすらとピンク色になり、息を吹き返したのでした。楊家の人々は喜んで、先生のお名前を教えて下さいと鉄拐に頼みます。そこでネタ晴らし。
もう一丸薬を楊子に差し出して「これを飲めば病気もよくなり、何日かは生きることができよう。」楊子は口を開いて何か言おうとしましたが、鉄拐は風となって消えてしまいました。楊子は何度もお礼を言い、お母さんに最後まで孝行を尽くしたそうな……めでたしめでたし……ですよ。この後楊子も天に昇りました~とかいう後日談も入り、ちょっと出来過ぎなくらい良い話だけど、この後の李鉄拐を見るとなんか……いや、いいや。何も言わねぇ。◆仙童とふざけててヤバイモノ逃がしちゃったの巻
再び老君の元へ帰ってきた鉄拐ですが、ある日老君が出かけている時にふざけて、「みんなで青牛に一回ずつ乗ってみないか。」と仙童たちに吹っかけました。仙童たちも大はしゃぎで、鉄拐は早速青牛の縄をほどき、またがろうとします。
しかし青牛の方は鉄拐にビビッて暴れだし、雲の彼方に逃げてしまいました。慌てて追うも後の祭りで、とうとう見失ってしまいます。おい、さっきとはエライ差が…、いきなり子供化しとるぞ鉄拐。
帰ってきた老君も怒り心頭で、「いいか。あの牛は、以前人間の世界へと降りていって、多くの災いを引き起こしているのだ。その災いは人の力ではどうしても抑えることができないので、こうしてつなぎ止めておいたのだ。それなのにおまえ達が、また放ってしまった。今度はいかなる災難が起きるか私は知らないぞ。おまえ達の犯した罪は、はかり知れないぐらい大きいのだ」と杖で仙童をビシッと叩きました。
鉄拐もこのとき罰として人間界に下丹(※天界から下って地上でまた生まれ変わること)させられてしまいます。しかしこれで事態が解決する訳もなく。老君の心配通り、逃げた青牛が人間界でまたやりたい放題し始めました。逃げて秦国に辿り着いた青牛は、そこで王室の優雅な暮らしを目の当たりにして、自分もいい思いがしたくなります。王を捕まえて都から離れた遠い所に隠し、自分が王に化けて入れ替わりました。しかし王妃は騙されず、本物の王もしばらくして見つかったので、王宮にいる偽物の首を刎ねるよう命令が出ます。
軍が占拠された宮殿へと攻め込みますが、青牛の使う妖術の為に人間の力では全く歯が立ちません。困った王は、臣下に薦められて玄女娘娘(※九天玄女)を祭る廟へと向かい、祈ると供に檄文(げきぶん)を燃やしました。その檄文を目にした玄女は、すぐに雲へ昇り、下界の様子を見ます。
「はて。老君がよく許していることよ。とりあえずお知らせしとくとしよう。」と、老君に事態を知らせる書簡を送り、一方で王の夢の中に現れ、申し出を受けて青牛を制する手伝いをしてやると告げました。 玄女からの知らせを受け、青牛の居所を突き止めた老君は、徐甲という使いを呼びこう命じます。「徐甲、護符と鎖を持って大秦国へ行き、畜生を連れ戻しておくれ。」
青牛と玄女の戦いが壮絶さを増す中、徐甲は青牛の前へと走り寄り、「喝!」と一声。護符を牛の背に投げました。すると青牛は急におとなしくなり捕まえられてしまいます。宮中はまるで嵐が去ったようにシーンとなり、やがて国王が戻るとにわかに活気づきました。人々は玄女に感謝し、末永く崇め奉ったとさー。◆李鉄拐が~、汝南の町で~、長房に~、であ~った~の巻
さて、青牛を逃がしてしまい、華山を追い出された鉄拐はどうしているのかというと、今は汝南の町にいました。老人の姿で名前を隠し、薬を売って歩きます。夕暮れになると店の前の壺にヒョイッと入って身を隠すのです。それを偶然にも目撃してしまったのが、黄長房(おうちょうぼう)という男。鉄拐はその男を壺の中に招待しました。
壺の中は意外にも立派な部屋になっていて、料理や酒がたくさん並んでいます。驚いている長房に酒をすすめ、二人は楽しい時を過ごしました。
鉄拐は自分が仙人であることを長房に明かし、この事を人にしゃべらぬようにと念を押します。老人の起こす不思議な現象を目の当たりにした長房は、次第に自分も道を求めて旅をしたくなりました。しかし家族がいる長房は躊躇います。そこで鉄拐は青竹で人形を作り、長房の家につるしました。それが家の人たちには長房が首をつって死んでいるように見え、彼が傍らで立っているのも気づかすに葬式まであげてしまいます。そうして、迷いを絶った長房は、鉄拐に従い山奥で修行を始めました。
長房は及び腰にもならず、何でもできるようになったかと思われましたが、ある日鉄拐に「糞を食べろ。」と言われた時はどうしても我慢できず、帰りたいともらします。ですよね。
やむなく鉄拐は竹の杖と護符を渡し、長房を帰らせました。竹の杖は長房を乗せて、家へと送り届けてくれます。用が済み、杖を草むらへ捨てると龍に変わってどこかへ去って行きました。家の人たちは長房が死んでもう何年も経っていると信じ込んでいるので、帰って来てしばらくは説明しても信じてもらえません。しかし家の人が言われた通りに半信半疑で墓を掘り返すと、中には本当に竹の杖が埋まっているだけだったので驚きます。長房は家に帰ってからというもの、毎日のように人々の難病を治療し、魔物を払いました。鉄拐との修行も無駄ではなかったんだね~、よかったよかった。
その後も自分の術で人を救って功徳をあげていた長房でしたが、ある日鉄拐に渡された護符を失くしてしまいます。すると魔物や妖怪が、一斉に長房にとりつき、苦しみながら死んでしまったとさ……あれ、全然よくなかった。さて、鉄拐の方はというと、割と順調なようです。勘当同然で崋山から追い出した老君にも罪を許され、再び仙人に戻りました。今までも仙人じゃなかったのかよってつっこまれるかもですが、仙人にもランクがあって簡潔に言うとレベルUPってやつです。そしてたまに、乞食として人間界に出向いたりしていました。
華山の童子は下界に降りて、いたずらに李鉄拐のことを世間に言いふらします。それを偶然耳にし、「これは千載一遇の好機、私を死なない体にしてもらおう。」などと考えて鉄拐に会いに来たりした人もいます。
当然、そんな一般人が、鉄拐の無茶振りについてこれるわけがありません。ついてこいと火に飛び込んだ鉄拐の後に続けるわけもなく、葉っぱの船に乗れるわけもなく。「救いようのないヤツだ、もう知らぬ。」とどことなく消えてしまいます。2011/11/30